一茶庵は大正15年に新宿にて創業しました。創業者・片倉康雄の年齢は22歳。
当時、蕎麦屋を独立開業する為には何年もの修行が必要だった時代でしたが、わずか1週間程度そば屋で働いただけの開業でした。
それ以前の職業は会計士。いわゆる「脱サラ」だった訳ですが、なぜ、そば屋を目指そうと思ったのか?村一番のそば打ち名人だった母親が作った蕎麦の味が忘れられず自分でも作りたかったというのが理由のようです。
こうして大正15年2月3日、現在の新宿アルタ脇の食堂横丁の一角で一茶庵は産声を上げます。
一茶庵という屋号の由来については、この年が俳人小林一茶の没後100年目にあたり そばとも縁が深かった一茶にあやかって名付けたとされています。
こうして無事に開店したものの、わずか1週間程度の修業で会得したそばの評判は当然よくありませんでした。
のちに著書でも語っていますが、お客さまを「ごひいきさん」「普通の客」「師客」と3種類に分けて、とくに味・ 技術に小言を言ってくる「師客」からの批評を糧として精進し続け、その後は麦飯からヒントを得て「そばとろ」をヒットさせて店の方も徐々に評判になっていきます。
それと同時に北大路魯山人、俳人の小泉迂外、作家の小林蹴月、長谷川如是閑ら文化人と知り合いますが なかでも後年師弟の間柄となったのが高岸拓川という文士でした。そして魯山人の影響を受け陶器、漆器等器作りにも興味を持ち始めます。